新しい経口糖尿病薬
1 週1回服用のDPP-4阻害薬
消化管由来のインクレチンの働きを高めて、血糖値が高いときにだけ作用するDPP-4阻害薬が低血糖や体重増加が少ない薬として、多く使われるようになっています。
そして、このDPP-4阻害薬に週1回服用で良い薬が新たに加わりました。
2015年5月に「ザファテック®錠」2015年11月に「マリゼブ®錠」が発売されました。
週1回の服用ですが、1日1回あるいは2回毎日内服するDPP-4阻害薬と同等の血糖改善効果があります。
「ザファテック®錠」は、「ネシーナ®錠」の構造の水素(H)をフッ素(F)で置き換え、DPP-4阻害作用を変えないまま、代謝酵素などによる影響を受け難くし、持続効果が得られました。「マリゼブ®錠」は、肝臓で代謝をほとんど受けず、腎臓で排泄されるときにほとんどが再吸収されるといったメカニズムから、効果が1週間持続します。
一人暮らしの高齢者、認知症などで自ら服薬管理ができない要介護者、不規則勤務や仕事が多忙で毎日の規則正しい服薬ができない症例、毎日製剤を飲み忘れて残薬が発生している症例などに対し、少ない服薬負担で血糖コントロールを良好にしてくれる薬として期待されています。
この薬を正しく服用するコツとしては、服用する曜日を決める、薬のシートに服用する日や曜日を記載しておくなどの方法があります。ただし、週1回製剤を飲み忘れると血糖管理に大きく影響が及ぶので、飲み間違えたときの対応方法についての服薬指導が大切です。この他に注意することとしては、一度服用すると1週間は薬の影響を除去できないため、服用後にシックデイ (※下注1) となった場合は、安全性の高いインクレチン関連薬とは言え、消化器症状による脱水や、他の糖尿病薬を併用の場合には低血糖の危険が全くないわけではないので、シックデイでの内服方法を指導することも大切です。
※注1「シックデイ」:糖尿病患者が発熱、下痢、嘔吐をきたし、または食欲不振のため食事ができないときのこと。シックデイの際には高血糖・低血糖等、血糖値の乱れを生じやすく、急性合併症が起こりやすくなるので、糖尿病の療養生活上、注意が必要な日である。
2 配合薬
良好な血糖コントロールを得るために異なる作用機序の糖尿病薬を組み合わせて使います。近年、経口糖尿病薬には、異なる作用を示す経口糖尿病薬が配合された薬が次々と上市されており、7種類11製薬あります (別表PDF「経口血糖降下薬の配合薬一覧表」) 。
この配合薬を使うことのメリットとしては、服薬する錠数や服薬回数を増やさずに血糖値を改善、単剤の増量に伴う副作用の発現を抑えることできます。患者にとっては、服薬忘れなどを防げ、薬剤アドヒアランスの改善や経済的負担の軽減にもつながり期待されています。
デメリットとしては、配合薬に含まれる薬剤用量の固定化は、良好な血糖コントロールが得られているときにはこれを継続することが望まれますが、血糖コントロールが不安定になった場合に、きめ細かい用量調整が難しくなります。また、それぞれの薬の注意点がそのまま配合薬の注意点となります。例えば、ピオグリタゾンは心不全の患者には禁忌になっています。そのため、ピオグリタゾンがベースの配合薬、「メタクト®配合錠」、「ソニアス®配合錠」、「リオベル®配合錠」も心不全患者には禁忌となります。配合薬を服用して副作用が生じた場合に、どちらの薬が原因か良くわからないとも言われています。配合薬に含まれる成分に気付かず同じ成分の薬を重複して服用してしまう可能性があるため、重複しないよう確認する必要があります。
新しい注射薬
1 週1回投与のGLP-1受容体作動薬
2010年に我が国で初めてGLP-1受容体作動薬の「ビクトーザ®」が発売され、2013年5月には週1回のGLP-1受容体作動薬の「ビデュリオン®」が発売され、2015年8月に注射手技が簡便な「トルリシティ®」が発売されました。
「ビデュリオン®」は、注射してエキセナチド10㎍1日2回注射で得られる治療域の血中濃度に近くなるのに4~6週間ほど要し、効果発現は緩徐です。針は23Gと太く、用事懸濁して混和する作業が必要です。
「トルリシティ®」は、週1回製剤のエキセナチドに比較すると、消化器副作用、食欲抑制作用、体重減少効果が弱いです。作用発現は早く、注射1~2日で効果が発現し、3週間でほぼ定常状態に達します。透明な液体で、注射器は患者が針を見ることなく、キットの先端を腹壁などの注射部位にあてて押すだけで注射できます。また、29Gと細い針が使われています。週1回の注射で良い、投与量の調節が必要ない、嘔気が少ないということが薬剤アドヒアランスを高め、在宅治療中の高齢者や自己注射が難しい要介護者の場合、忙しい社会人にとっても利便性が高い薬と言えます。
この薬を正しく注射するコツとしては、注射する曜日を決める、注射日を手帳やカレンダーに印をつける (「トルリシティ®」:リマインダーシールという注射日を手帳やカレンダーに貼るシールがあります) 方法があります。ただし、週1回製剤を注射し忘れてしまうと血糖管理に大きく影響が及びますので、注射し忘れた時の対応方法についての指導が大切です。
この他に注意することとしては、副作用としての悪心、嘔吐などの消化器症状が出現した場合、毎日注射する製剤ですと薬剤の減量が容易ですが、週1回製剤では減量が難しくなります。
2 バイオシミラー
インスリン治療は、1型糖尿病でも2型糖尿病でも使われ、良い血糖コントロールをもたらしてくれますが、経口糖尿病薬に比べると高価なため、患者にとって経済的負担になります。これを解決すべく2015年には、インスリン製剤として初めて「バイオシミラー」が登場しました。
「バイオシミラー」とは、バイオテクノロジーを用いて製造された先行バイオ医薬品とアミノ酸配列が同一で企業間で製造過程は異なる製剤をいいます。
先行バイオ医薬品と高い類似性をもち、有効性と安全性が同等であることが臨床試験で証明されています。バイオシミラーの薬価は、先行バイオ医薬品の約70%です。例えば、薬代が 2,000円/月かかっている場合、年間では 24,000円かかりますが、「バイオシミラー」を使うと年間 16,800円になり、7,200円の医療費の節約になります。ただし、先行バイオ医薬品とバイオシミラーではデバイスが違いますので、患者へデバイスの特徴、手技等の説明や指導が必要になります。
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