成人病News

vol.018 2019年 1・2・3月

糖尿病食事療法の“個別化”に向けて

(公財)朝日生命成人病研究所附属医院

所長・院長 春日 雅人

標準体重と総エネルギー摂取量の算定方法への疑問

新年おめでとうございます。
年頭にあたり、皆様のご健康とご多幸をお祈り申しあげます。

 昨年の11月5日に、日本糖尿病学会が食事療法に関するシンポジウム「再び日本人にふさわしい糖尿病食事療法を考える」を開催しました。このシンポジウムで注目されたのは現行の食事療法における標準体重と総エネルギー摂取量の算定方法に疑問が提示された点でした。
 現行の食事療法では、BMI(body mass index)22を目標として、標準体重(kg)=[身長(m)]2×22と定め、総エネルギー摂取量=標準体重×身体活動量とし、身体活動量(kcal / kg 標準体重)は軽い労作では25~30、普通の労作では30~35、重い労作では35以上として算定するのがわが国ではゴールデンスタンダードとされてきました。実際、多くの医療関係者は疑問を持たずに半ば習慣的に上記の方法で総エネルギー摂取量を算出してきたのが実情と思います。
 個別化医療が提唱されている現在においては、確かに上記の方法はやや乱暴かもしれません。BMI22を目標としたのは、疾病に最も罹患しにくいあるいは死亡率が最も低いからなどの理由があげられていますが、日本人で40歳代のBMIと平均余命を調査するとBMI25~30で最も長かったという成績や、日本人の2型糖尿病者で75歳以上ではBMI22.5~24.9で最も死亡率が低いという成績、あるいは白人の2型糖尿病者ではBMI22.5~24.9で最も死亡率が低いなどの成績があります。したがって全ての人でBMI22が標準あるいは理想とはならないことは明らかです。
 一方、身体活動量も個人差が大きいことが知られ、運動以外の身体活動量(NEAT:nonexercise activity thermogenesis)のバラツキもこれに貢献していると考えられています。エネルギー消費量は基礎代謝量、食事誘発性熱産生、身体活動量よりなりますが、現在では二重標識水法(doubly labeled water:DLW)でエネルギー消費量をかなり正確に測定できるものの、高価で分析が簡単でないため、各個人でこれを測定するのは現実的でないと考えられ、高齢者や糖尿病者の代表例でDLW法を用いてエネルギー消費量を測定する研究が現在進行中です。

“個別化”に向けての道筋

 ではどのような代替案があるのでしょうか? 肥満で2型糖尿病の患者さんでは、まずその患者さんの摂取されている食事を詳しく1週間程度記載して頂き、これを基に1日の摂取カロリーを計算する。このような患者さんでは、まず5%の減量がコンセンサスですので、それを3~6ヵ月で達成するには1日何カロリー減らせばよいか計算して、それを現在の摂取カロリーから減じたカロリーを総エネルギー摂取量とするというのがひとつの案として考えられ、米国などで行われている減量を伴う臨床研究ではこのような方法がとられることが多いようです。
 シンポジウムでも、現行の総エネルギー量の算定方式を急に変更するのは大きな混乱を招くとして、徐々に現在の方式の問題点を関係者に理解して頂き、その間に代替案を皆で考えるべきであるとの意見が出されていました。食事療法にも“個別化”の意識が必要であり、それが可能な時代になりつつあると思われます。

FreeStyleリブレ / FreeStyleリブレProについて
 ~血糖変動モニタリング~

糖尿病代謝科 震明 あすか

はじめに

 治療や生活スタイルの違う糖尿病患者さんには、それぞれの血糖変動パターンがあります。受診日の血糖値やHbA1cで血糖変動を予想するのは難しく、食後の高血糖や自覚症状のない低血糖が潜んでいる可能性があります。
 また、保険上の問題、血を見るのが苦手、外出中に血糖測定するのが難しいなどの理由で、治療上必要な回数の自己血糖測定ができていない患者さんが多くいらっしゃいます。そこで、最近メディアで取り上げられることが多くなった持続血糖モニタリング機器「FreeStyleリブレ」についてご紹介します。

FreeStyleリブレとは

 基本的にインスリン、低血糖を起こす可能性のある一部の飲み薬を使用している患者に装着します。
腕に装着したセンサーが、間質液中のグルコース濃度を最長14日間記録します。センサーをReaderでスキャンすることで、それまでの血糖プロファイルを以下のように見ることができます。
※グルコース濃度と血糖値は解離する場合があるため、自己血糖測定は継続する必要があります。
自己血糖測定グラフ例

リブレの種類

 見た目はそっくりですが、用途に合わせて2種類のリブレがあります。Readerの色が異なります。
 特徴を以下にまとめます。

リブレイメージ画像

FreeStyleリブレ
FreeStyleリブレPro
対象
患者さん向け
医療従事者向け
センサーの装着期間
最長14日間
最長14日間
センサーの装着
患者さん自身が
上腕後部に装着
医療従事者が
患者さんの上腕
後部に装着
センサーメモリー
8時間
※8時間に1度はスキャン
最長14日間
※14日間スキャンの必要なし
血糖測定機能
あり
※専用測定電極を使用
なし
主な使用目的
糖尿病患者さんの
自己管理をサポート
医療従事者の糖尿病
治療方針決定をサポート

出典:アボット社公式HPより引用

 当院では、FreeStyleリブレ/リブレProいずれも運用しています。
 保険上の問題で自己血糖測定のセンサーが足りなくなる、外出中の血糖測定ができずに困っている、血糖の変動が大きく高血糖や低血糖をよく起こしている方がこれらの機器の存在を知り、興味を持っていただけたら幸いです。
 身近な病気となった糖尿病はメディアで取り上げられる機会がとても増えており、医療の分野だけでなく自分に必要な情報を選択する時代になりました。インターネット通販などで医療機器さえも簡単に手に入ってしまうのですが、間違った知識のもとで使用すると、悪い結果につながる可能性もあります。これらのツールを適切に選択・利用し、皆様の糖尿病治療や血糖管理がより良いものになるよう日々診療を行っていきたいと思います。

FreeStyleリブレProを利用した当院での研究

 当院に糖尿病教育入院をした患者さん38名の協力を得て、FreeStyleリブレProを用いて退院前後の血糖変動を観察する研究を行いました。
 対象は年齢66.1±15.2歳、男性18名、女性20名、1型7名、2型30名、その他1名、HbA1c 8.5±2.2%、BMI 24.0±3.8㎏/m2、罹病期間23.1±11.7年、インスリン治療29名、経口薬のみ8名、食事療法のみ1名でした。
 退院5日後に装着していた33名のうち、退院前日と比べ血糖が悪化した者は11名、そのうち10名は退院2日後すでに血糖が悪化していました。糖尿病教育を受け、退院後も血糖 コントロールが良好な状態をキープできている患者さんがいる一方で、退院後早期に血糖が悪化する患者さんが少なからずいることが明らかになりました。
対象人数を増やし、退院後の血糖コントロール悪化を予測する因子・指標について検討し、今後の診療に役立てたいと考えています。
※退院翌日以降の平均血糖値と退院前日の平均血糖値の差を ΔBGとし、ΔBG ≧ 10mg/dLを悪化と定義

治験とCRC

CRC室 チーフ 泉澤 恭子

薬が生まれるまで

 私達は病気になると薬を飲んで回復を待ちます。人間には自然治癒力があって自ら病気と闘う力がありますが限界があります。薬は一緒に病気と闘ってくれる頼りになる存在です。
 薬物治療は20世紀後半から急速な進歩を遂げ、昔なら不治の病とされていたような病気も簡単に治せるようになりました。私達に身近な糖尿病の薬もこの20年の間にめざましい進歩をとげ、ほんの数種類しかなかった薬物治療の選択肢が画期的に増え、それぞれの体質や病態に合わせての治療ができるようになりました。これらの薬も元々は製薬会社や大学の研究室で発見された薬になる可能性を秘めた化合物でした。その化合物を何年も手間ひまかけて薬に育て、患者さんのもとにお届けするわけです。新薬の開発には約10年以上かかり、200~300億円もの費用がかかると言われています。下記にお示ししたようなプロセスを経て薬は生まれてきます。

基礎研究
製薬会社や大学の研究所での薬の候補となる新しい物質の発見やその合成の研究です。<2~3年>
動物試験
薬物の有効性や安全性を確認するため動物を用いて行う非臨床試験です。<3~5年>
臨床試験
薬物の人での有効性や安全性を確認する試験でこの試験を「治験」と呼んでいます。第Ⅰ相試験、第Ⅱ相、第Ⅲ相試験と段階があります。<3~8年>
承認審査
国の承認審査が実施されて新薬の有効性や安全性が確認されると製造販売が許可され、患者さんが使えるようになります。<1~2年>

 動物と人間とでは体の仕組みが違うので、動物での結果をそのまま人に当てはめることはできません。今の科学では、どうしても人での試験が新薬の誕生には必要なのです。
 上記の臨床試験の中で、当院では主に第Ⅲ相試験と呼ばれる(多数の患者さんに参加いただき、標準となるお薬と比較して有効性・安全性を調べる)「治験」を実施しています。
 当院は研究所の使命として、創設以来半世紀にわたり「治験」に取り組んでまいりました。実際、現在世界で使われている糖尿病のお薬の全種類が当院の患者さんの参加協力によって生まれたと言っても過言ではありません。

CRCをご存知ですか?

 CRC(Clinical research coordinator)というのは治験コーディネータ―の略称で、20年ほど前に誕生した新しい医療職種です。欧米ではスタディコーディネーターと呼ばれ日本より長い歴史があります。病院で働くスタッフの中でCRCは新しい職種なのでまだ一般には知られていませんが、今や「治験」を牽引するなくてはならない存在です。CRCの業務は多岐にわたり、医療職と事務職の両方の能力が必要とされます。かつて「治験」の空洞化と言われ我が国が先進国の医薬品開発から乗り遅れ、他国で使われている優れた薬が使えないということがありました。この理由の一つとして、日々の診療業務に追われる多忙な医師に任せきりで「治験」がいっこうに進まないということがあったのです。新しい治験を実施する法律(GCP)が制定されたのをきっかけに政府も打開策を考え、CRCが誕生したのです。
 「治験」は人を対象とした試験ですから非常に厳しいルール(GCP)のもとに行われます。CRCは医師にも治験依頼者にも中立な立場で、治験の信頼性・科学性・倫理性を担保するために働くのが使命ですので、患者さんの立場に立ち、時に医師や依頼者にクレームをつけることすらあります。患者さんに体調確認の電話やメールをしたり、よくお話しをしますので、信頼関係が深まります。
 治験にご協力いただく患者さんの事を「創薬ボランティア」とお呼びしてますが、治験が終了しても、笑顔で声をかけてくださったり、気軽に相談にいらしてくださったりと、「創薬ボランティア」の患者さんとの交流が続いていて、それが私達CRCの励みにもなっています。もし治験にご興味を持っていただけましたら、是非、治験室にお声がけください。

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