成人病News

vol.020 2019年 7・8・9月

糖尿病と人工透析

(公財)朝日生命成人病研究所附属医院

所長・院長 春日 雅人

糖尿病性腎症と人工透析

 糖尿病の代表的な合併症に糖尿病性腎症があります。そして糖尿病性腎症が進展して腎不全に至ると人工透析療法を受けることになります。すなわち、腎臓の持つ「老廃物除去」「電解質維持」「水分量維持」と言う機能が失われるために、これらの機能を人工的に代替するのが人工透析療法で、その中心である血液透析療法では、週に3回、毎回4-5時間かけて、血液を体外に取り出して血液を浄化するので、患者さんのQOL(生活の質)が大きく損なわれることになります。
 日本透析医学会の調査によりますと、新規透析導入の原因疾患として2000年ごろから糖尿病性腎症が第1位となり、その数はその後も増え続け、2008年には16,000人/年を越え、その後は横ばい状態で今日に至っています。人工透析には1年間に約500万円の医療費を要すると言われており、増え続けるわが国の医療費をどう抑制するかという観点からも糖尿病性腎症の予防は重要な課題になっており、厚生労働省もその対策に乗り出しています。

糖尿病性腎症の進行段階

 糖尿病性腎症では、腎不全にならないと自覚症状はありません。従って各種検査でその有無を調べることになります。糖尿病性腎症の最初に認められる異常は尿の中に蛋白が少しずつ漏れ出てくることです。次第にその量が増加するとともに次に腎機能が徐々に低下して、最終的には腎不全になり人工透析による治療が必要になります。この経過を尿中の蛋白量とeGFR(推算糸球体濾過量)で表現した腎機能に基づいて下の5期にわけています。

1期(腎症前期)
正常アルブミン尿でeGFR30以上
2期(早期腎症期)
微量アルブミン尿(30-299mg/gCr)でeGFR30以上
3期(顕性腎症期)
顕性アルブミン尿(300以上)あるいは持続性蛋白尿(0.5g/gCr)でeGFR30以上
4期(腎不全期)
尿蛋白量は問わないがeGFR30以上
5期(透析療法期)
透析療法中

 一般的には糖尿病を発症後5-15年で微量アルブミン尿を呈するようになり(早期腎症期)、更に5-10年で顕性腎症期に移行すると考えられていますが、血糖ならびに血圧のコントロールに加え遺伝素因も関係しているのか、その経過には個人差があります。

糖尿病性腎症の寛解と早期診断・治療の重要性

 以前は糖尿病性腎症はある程度進行すると元に戻すことはできないと考えられていましたが、膵移植を行って長期間血糖値を正常化すると腎臓の病変が是正されるとともに腎機能も改善されることが報告され、現在では腎症の“寛解”や“退縮”がありうると考えられています。すなわち、血糖、血圧、血清脂質ならびに食塩摂取を厳格にコントロールすることにより、2期(早期腎症期)から1期(腎症前期)へ、更には3期(顕性腎症期)から2期あるいは1期へ寛解することが報告されています。寛解のためには早期診断・早期治療が重要と考えられており、まずは尿中への蛋白の漏出の程度を測定することが重要になります。このために、尿中に漏出している代表的蛋白質であるアルブミンを鋭敏に定量できる微量アルブミン尿測定が重要になり、年1回はこの検査を受けることが勧められています。当院の外来では、尿中の蛋白量を試験紙法で測定し、(-)~(4+)で判定しています。この方法ですと、(+/-)で尿中蛋白濃度15mg/dl、(1+)で30mg/dl、(2+)で100mg/dl、(4+)で1,000mg/dl程度と考えられています。この mg/dl から mg/gCr に換算するには、いくつかの前提を設定すると、おおよそ 10× すればよいと考えられます。すなわち、(+/-)であれば2期、(+)以上が持続していれば3期の可能性が高いと考えられます。勿論、糖尿病患者さんの尿中に蛋白が検出されたからといって、それが糖尿病性腎症によるとは限りません。この点については主治医の先生とよく相談して頂き、糖尿病性腎症による可能性が高ければ、血糖、血圧、血清脂質そして食塩摂取をより厳格にコントロールすることが必要になります。
 外来での尿検査の結果にも注意をして、糖尿病の三大合併症のひとつである腎症の発症あるいは重症化予防に努めて下さい。

当院消化器内科の診療と研究について

消化器内科部長 藤原 弘明

 本年4月より消化器内科部長に就任致しました、藤原弘明と申します。前職は東京大学医学部附属病院消化器内科で、膵嚢胞や胆石などの膵臓・胆管領域の診療と研究に従事しておりました。消化器は食道・胃・十二指腸・小腸・大腸・肝臓・胆管・膵臓…とカバーしなければならない臓器が多く、また他分野と連関する疾患も多いことから、常に「全身を診る」ように心がけると共に、患者さん一人一人と向き合い丁寧に説明するということを大切にしております。

消化器内科の診療

 消化器の病気の症状は多彩です。胸焼け・腹痛・下痢・便秘・腹部膨満感など挙げればきりがありません。当科の外来ではそういった症状については勿論のこと、健診や人間ドック等で指摘された「要精密検査」項目の御相談にも対応しております。当院は胃・大腸カメラといった内視鏡検査から腹部超音波検査やCTスキャンなど消化器領域の検査に幅広く対応可能であり、近隣のクリニックや企業診療所の先生方からの検査依頼を随時受け付けております。受診にあたっては紹介状が必要ということもございませんので(医学的情報がどうしても必要な場合にこちらからお頼みすることはございますが)、どうぞお気軽に御相談下さい。
 精査の結果、更に専門的な診療や検査が必要と判断された場合には、特定機能病院への紹介を含めて対応しております。当科では外来診療や内視鏡検査、超音波検査に携わる医師の多くが東京大学消化器内科出身という関係から、東京大学医学部附属病院との連携診療を行う機会も多いのですが、その他にも多くの医療機関と密に連携を取って診療に当たっております。
 具体的に連携診療が必要になる疾患の最たるものは、成人病の一つとして依然増加傾向にある消化器癌です。日本人で罹患数の多い胃癌・大腸癌・肝癌だけでなく、最近では膵臓癌や胆管癌なども増加傾向にあり、その予後を左右する早期発見に力を入れております。肺癌でタバコが発癌リスクになるというのは皆さんにもイメージしやすいかと思いますが、消化器癌でも同様に、危険因子となる背景疾患がそれぞれにあります。やや専門的な話になりますが、例えば胃癌はピロリ菌感染を背景にした萎縮性胃炎から起こりますし、大腸癌は(腺腫性)ポリープから、肝癌はウイルス性肝炎のみならず最近では脂肪肝を背景にした肝炎(NASH)からも発癌することが明らかになっています。また、膵癌では膵嚢胞を持つ人に発癌リスクが高いことが知られています。このような病気をお持ちの方にはそれぞれに適切な検査を適切な間隔で受ける必要がありますので、その必要性を十分に御説明の上、フォローアップ検査を行っております。

消化器内科の研究 ―消化器癌、とりわけ肝内胆管癌―

 当科では消化器癌の研究、特に発癌メカニズムについての研究に力を入れております。東京大学消化器内科、東京大学医科学研究所、横浜市立大学消化器内科との共同研究で、胃癌や大腸癌、肝癌、膵癌発癌の分子メカニズムの解析を通じ、治療や予防につながる標的分子の検索を主な目的としております。私自身のテーマとしては肝癌のうち、肝内胆管癌というやや珍しいタイプの癌で、日本を含めアジア人に多いという特徴があります。肝内胆管癌は外科的切除以外に有効な治療に乏しく、消化器領域における難治癌の一つでありますが、当研究所において一つでも多くの成果を挙げ、その予後改善に貢献したいと考えております。


アディポカインと生活習慣病の研究に向けて

糖尿病内科・部長 小堀 勤子

着任のご挨拶

 本年4月より当院糖尿病代謝科に着任いたしました、小堀勤子と申します。2008(平成20)年に千葉大学医学部を卒業し、東京逓信病院で2年間の初期臨床研修、三井記念病院で1年間の後期研修を行った後、東京大学糖尿病・代謝内科に入局し、東京大学医学部附属病院で糖尿病や肥満症を始めとした生活習慣病の診療および基礎研究を行って参りました。
 このたび、糖尿病の診療および研究において歴史ある朝日生命成人病研究所に勤務することとなり、光栄かつ身の引き締まる思いでおります。朝日生命成人病研究所附属医院でも、糖尿病の診療とともに、東京大学糖尿病・代謝内科と緊密に連携して研究を行って参ります。どうぞよろしくお願い申し上げます。

わかりやすく最適な治療の提供を目指して

 糖尿病は、長く付き合っていくことが必要な疾患で、残念ながら現時点では完治することが難しい病気です。しかし、血糖・体重・血圧・脂質などを良好にコントロールした状態を維持することで、網膜症・腎症・神経障害などの糖尿病細小血管合併症や、冠動脈疾患・脳血管障害・末梢動脈疾患などの動脈硬化性疾患の発症・進展を阻止し、健康な人と変わらない日常生活の質を維持し健康寿命を確保することが可能になります。近年、糖尿病の治療薬の進歩はめざましいものがありますが、その効果を最大限に発揮するためには、患者さん本人の治療に取り組む姿勢が重要であることは言うまでもありません。
 このような疾患の特徴からも、患者さん自身が継続して前向きに糖尿病に取り組んでいけるよう、そして良い血糖コントロールを維持できるように、丁寧でわかりやすい診療とその患者さんにとっての最適な治療を提供していきたいと考えております。
 また、糖尿病のみならず、何か気になることがございましたら、遠慮なさらずにご相談ください。患者さんと共に歩む開かれた診療にしたいと思います。

脂肪細胞から分泌される「アディポカイン」とは

 近年の糖尿病患者数増加の主要な原因として、食生活の欧米化や運動不足などの生活習慣の変化による肥満・インスリン抵抗性の増加が挙げられます。肥満により肥大化した脂肪細胞からは、遊離脂肪酸や、脂肪細胞から分泌される生理活性物質アディポカインのうちTNFα、レジスチンなどの悪玉のアディポカインが大量に生産・分泌され、筋肉や肝臓におけるインスリン作用の伝達を障害して、インスリン抵抗性が惹起されます。一方で、抗糖尿病作用、抗動脈硬化作用を有する善玉のアディポカインであるアディポネクチンは、肥大化した脂肪細胞からは分泌が低下するため、これらが相まって肥満ではインスリン抵抗性が引き起こされます。
 このような、脂肪細胞から分泌されるアディポカインと生活習慣病に関わる研究を、共同研究施設である東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科と密に連携して行っております。

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