vol.013 2017年 9・10月
J-DOIT3の最終報告 間近に迫る |
||||||||||||||||
(公財)朝日生命成人病研究所附属医院 所長・院長 岩本 安彦 |
||||||||||||||||
J-DOIT3の最終報告 間近に迫る
J-DOIT3はJapan Diabetes Outcome Intervention Trial 3の略称で、2006年に厚生労働省が2型糖尿病の発症と合併症の予防をめざして立ち上げた3つの研究課題のうちの1つです。 J-DOIT3は高血圧と脂質異常症を有する2型糖尿病患者を対象に、「糖尿病合併症を30%抑制すること」をめざして進められた臨床試験で、他に、「境界型から糖尿病への進展(悪化)を50%抑制すること」をめざして行われたJ-DOIT1と、「糖尿病治療中断率を50%抑制すること」をめざして行われたJ-DOIT2があります。 J-DOIT3の概要
J-DOIT3は前述のように、高血圧と脂質異常症を有する2型糖尿病患者2,542人を対象に、強化療法群(1,271人)と従来治療群(1,271人)の2群にランダムに分け、血糖コントロール(HbA1c)、血圧、脂質の目標値をそれぞれ下表に示すように定めました。従来治療群の治療目標値は日本糖尿病学会が定めている現行の目標値ですが、強化療法群の治療目標値は血糖、血圧、脂質値ともに、より厳しく設定されました[下表]。両群ともにコントロール目標をめざして段階的に治療を強化することとし、とくに強化療法群では血糖測定器、血圧計、運動量測定器を貸与するとともに、栄養指導を頻回に行うなど、生活習慣改善に力を注ぐこととしました。
J-DOIT3における介入試験は全国81施設に通院している2型糖尿病患者2,542人の多大な協力と、多くの医師とメディカルスタッフの努力によって遂行されました。イベント発生が当初予測に比べて低かったこともあり、介入試験の期間はかなり延びましたが、日本発の糖尿病の治療と合併症に関する重要なエビデンスが得られたことと確信しています。 |
心不全について ~「心腸連関」から病態に迫る~ |
循環器内科部長 加茂 雄大 |
はじめに
はじめまして。本年4月より循環器内科部長に就任いたしました加茂雄大です。 心不全の病態
心不全は、息切れや浮腫(むくみ)などの症状によって日常生活に重大な支障をきたし、また突然死も含めて死亡率が非常に高い病態です。心不全では、心臓を構成する心筋に長期的に障害が生じることによって心臓のポンプ機能が低下し、症状が出現するようになります。心不全の原因となり得る疾患は多岐にわたりますが、高血圧・糖尿病・動脈硬化症・慢性腎臓病などの生活習慣病は心不全の危険因子として知られています。 心不全の予防および治療
ステージA~Bでは症状はありませんが、心不全による症状の出現および死亡を防ぐためには、このような早期から治療を行うことが重要です。具体的には、塩分制限を中心とした食事・定期的な運動・禁煙・節酒といった生活習慣の是正、および高血圧や糖尿病に対する薬物治療、さらに必要に応じて心臓の構築変化(リモデリング [※下注1])の進展を防ぐ薬物治療を行うことが推奨されます。つまり、生活習慣病を早期から治療することは、心疾患による死亡を防ぐためにも極めて重要なことなのです。 心不全の病態における「心腸連関」
従来は、「心不全は心臓の異常が原因」という観点から心不全の病態研究が進められてきました。しかし、「心不全は全身の臓器の異常が関わっている」という観点からもう一度心不全の病態をとらえ直す必要があると私は考えています。全身の臓器の中でも、心不全の病態と関連すると従来考えられていなかった「腸」に私は注目しました。 |
腸内細菌と生活習慣病 |
消化器内科部長 井原 聡三郎 |
腸内細菌が生活習慣病を改善する?
人間の腸には100兆個ほどの大量の細菌が暮らしており、人間と共生しています。腸内細菌の中には、食事の消化吸収を助けてくれたり、免疫力を高めてくれたりする善玉菌がいます。一方で、腸に炎症を起こしたり、肥満症・糖尿病・心臓病などの生活習慣病の原因となったりする悪玉菌がいます。加齢や不規則な生活習慣など様々なストレスによって、善玉菌が減って、悪玉菌が増えてしまいます。 腸内環境を整えるには?マウス実験のレベルでは A. Muciniphila を摂取することで代謝が改善することが報告されていますが、残念ながら人間に A. Muciniphila を摂取して糖尿病を予防する治療方法はまだありません。しかしながら、ビフィズス菌や乳酸菌に代表されるような善玉菌を摂取することで腸内環境を整えることは可能です。ヨーグルトなどで直接的に善玉菌を摂取する方法の他に、野菜・果物・豆類など食物繊維を多く含む食事を摂取することも有効です。善玉菌にとって食物繊維は栄養源になり、悪玉菌の増殖を抑えてくれます。逆に、肉や油物などの高脂肪食は善玉菌を減らし、悪玉菌を増やしてしまいます。また、規則正しい生活や適度な運動は腸内環境を整えるために重要で、生活習慣病の予防につながります。 当研究所での腸内細菌の研究当研究所の消化器部門では、腸内細菌が腸内環境や免疫力を整える作用に注目し、研究を行っています。特に腸内細菌と免疫細胞(樹状細胞)の関係について研究しています。先に述べた A. Muciniphila についても調べたことがあります。 A. Muciniphila は通常の培養方法では育ってくれないため、研究しにくい面があります。しかしながら、DNAを用いた解析方法の開発により、たとえ培養できなくても A. Muciniphila が増えているのか、減っているのかDNAレベルで知ることができるようになっています。今後、腸内細菌をターゲットとした生活習慣病の予防や治療が発展することを期待しながら、日々研究を続けています。 |