成人病News

vol.002 2015年 11・12月

糖尿病・成人病関連の学会に参加を

(公財)朝日生命成人病研究所附属医院

所長・院長 岩本 安彦

世界糖尿病デーを迎えて

 今年の世界糖尿病デーを目前にひかえて、全国各地で糖尿病の予防・啓発に向けたさまざまなイベントが企画されていると思います。朝日生命成人病研究所では、「 第2回あさひ健康まつりin 日本橋 ~糖尿病を知ろう!~ 」 を11月12日(木) 14:00 ~ 18:00 に朝日生命成人病研究所附属医院(朝日生命須長ビル9F特設会場)にて 開催いたします。患者さんや一般の方々のご来場をお待ちしています。

糖尿病・成人病関連学会にご参加を!

 今年も秋の学会シーズンを迎えました。秋から来春にかけて糖尿病や成人病に関連した多くの学術集会、研究会、分科会が予定されています。糖尿病や成人病(生活習慣病)関連の主な学会を列挙します。

  • 第31回 日本糖尿病・妊娠学会
    2015. 11. 20 ~ 21  リーガロイヤルホテル東京(東京)
    世話人:内潟 安子 先生 (東京女子医科大学教授)
  • 第30回 日本糖尿病合併症学会
    2015. 11. 27 ~ 28  愛知県産業労働センター(名古屋)
    会長:中村 二郎 先生 (愛知医科大学教授)
  • 第21回 日本糖尿病眼学会
    2015. 11. 27 ~ 28  愛知県産業労働センター(名古屋)
    会長:武田 純 先生 (岐阜大学教授)
    (日本糖尿病合併症学会と共同開催)
  • 第19回 日本病態栄養学会
    2016. 1. 9 ~ 10  パシフィコ横浜(横浜)
    会長:本田 佳子 先生 (女子栄養大学教授)
  • 第50回 日本成人病(生活習慣病)学会
    2016. 1. 16 ~ 17  都市センターホテル(東京)
    会長:小田原 雅人 先生 (東京医科大学教授)
  • 第53回 日本糖尿病学会 関東甲信越地方会
    2016. 1. 23  パシフィコ横浜(横浜)
    会長:粟田 卓也 先生 (国際医療福祉大学教授)

 なお、日本成人病学会の折には、第50回を記念して日本成人病(生活習慣病)学会 50回 記念式典を開催いたしますので、ふるってご参加くださいますよう お願い申し上げます。

酸化ストレス障害のメカニズム
~新物質ORAIPの発見~

循環器内科部長 世古 義規

酸化ストレスが生体にもたらす影響

 生物が活動するためには酸素が必要ですが酸素消費を増やしたり過剰な酸素にさらされると新陳代謝が亢進して細胞老化が進んだり、エネルギー産生に使われた酸素分子の一部が活性酸素となり細胞障害を引き起こします。「酸化ストレス」や「抗酸化作用」という言葉が漠然と使われていますが「酸化ストレス」とは物理化学的にどういう刺激で、どのようなメカニズムで生体に影響を及ぼすのかについては必ずしも解明されていません。ここでは最近我々が発見した「酸化ストレスに反応して細胞から分泌され細胞障害(アポトーシス)を引き起こす生理活性物質」を紹介しながら酸化ストレス障害のメカニズムとその治療の展望について述べることにします。
 一般に「ある物質が酸化される」とは狭義には「酸素原子が結合すること」と定義されますが広義には「電子が奪われる(電子を放出する)こと」であり、このような状態をもたらす刺激全般を酸化ストレスということができます。したがってこの中には温度変化・pH変化や電磁波など酸素が直接関与しない物理化学的な刺激も含まれます。
 臨床で最も問題になる酸化ストレスとして組織の虚血再灌流があげられます。すべての組織に血液が酸素を供給していますが、動脈硬化や血栓などによって血流が途絶えると虚血状態に陥り短時間で血流が再開されないとやがて壊死することになります。この時、一定時間内に血流が再開されると一部の組織は生き残りますが再供給された酸素によって酸化ストレスにさらされることになり虚血再灌流障害という細胞障害が起こります。急性心筋梗塞や脳梗塞などの大血管の急激な虚血再灌流だけでなく、明らかな臨床症状を伴わないレベルの潜在性の虚血再灌流が大小の血管でも起こることによって様々な病態が形成されていると考えられます。組織が壊死しない限り虚血あるところには必ず虚血再灌流障害が生じることになります。
 また酸化ストレスは、酸素濃度変化(運動でも起きる)・温度変化、紫外線・放射線などの電磁波等の外界から生体への組織障害因子の主要な部分を占め、動脈硬化や老化を促進して成人病(いわゆる生活習慣病)や癌等の病因になっていると考えられます。従来から酸化ストレスによってアポトーシスという細胞死が起こることが知られてきましたが、そのメカニズムは解明されていませんでした。

ORAIP―酸化ストレス障害克服への期待

 我々は「細胞が酸化ストレスのような物理化学的な刺激に対して何らかの生理活性物質を分泌し、それが細胞膜上の受容体に結合して細胞内へシグナルを伝えることによりアポトーシスを誘導する」ことを見つけました。そして酸化ストレスによって細胞から分泌型のeIF5Aというタンパクが分泌されてアポトーシスを誘導していることを明らかにし、新規の生理活性物質としてORAIPと命名しました。
 ORAIPは従来から報告されている細胞質内型eIF5Aとは異なり分泌にともなって構造が変化することによってアポトーシス誘導活性を新たに獲得することが明らかになりました。心筋梗塞の動物モデルでORAIPの血中濃度が著明に上昇することや再灌流直前にORAIPに対する中和抗体を投与すると心筋梗塞が顕著に縮小することが分かりました。
 様々な検討により、ORAIPは生体の酸化ストレス応答に共通の根源的なメカニズムを媒介している可能性が高いと考えられます。糖尿病・慢性腎臓病や癌においてもORAIPの血中濃度が著明に上昇することから、これらの疾患における動脈硬化や様々な臓器障害の原因になっている可能性が考えられます。今後、ORAIPを標的とした治療法として①癌治療における放射線や抗癌剤の副作用抑制、および進行癌の悪液質の抑制、②糖尿病(合併症)や慢性腎臓病における臓器障害抑制、③急性心筋梗塞や脳梗塞をはじめとする虚血性疾患の急性期の再灌流障害抑制、への臨床応用が考えられます。このようにORAIPは酸化ストレス障害の診断・治療のきわめて有望な標的となると考えられ、早期の臨床応用が望まれます。

[編集部注:ORAIPの発見に関しては、朝日新聞日本経済新聞等で記事として取り上げられました。]

Happy Birthday ADA and EASD !
~米国・欧州の糖尿病学会のトピックスから~

部長・糖尿病代謝科 高尾 淑子

欧州・アメリカの糖尿病学会での発表という幸運

 第50回欧州糖尿病学会(EASD)は2014年9月15-19日にオーストリア・ウィーンで、第75回アメリカ糖尿病学会(ADA)はその翌年の2015年6月5-9日にマサチューセッツ州ボストンで開催されました。幸運にも、私はこの50周年、75周年を記念する両学会で発表する機会をいただきました。両学会の参加者は共に世界130か国以上から18,000人を超えたそうです。

第50回欧州糖尿病学会(EASD)

http://www.easd.org/index.php?option=com_content&view=article&id=157:50th-easd-annual-meeting

 EASD2014ではEASD プレジデントのAndrew J.M. Boulton 氏の挨拶に続き、The new biology of diabetes と題したClaude Bernard Award受賞者、Domenico Accili氏の講演を拝聴しました。β細胞機能不全はアポトーシスではなく、主に脱分化によって引き起こされる。2型糖尿病の治療はβ細胞の分化を回復させることを目的とすべきとの斬新な内容とそのスライドの美しさに感銘を受けました。
 ホットトピックスとして、ADVANCE試験終了後、約5年間フォローアップした追跡研究(ADVANCE-ON)の結果が報告されました。降圧治療が総死亡、心血管死に及ぼす影響は時間の経過とともに徐々に減弱するが、なお有意に持続するという内容で、この効果をCarry-forward effectと表現していました。対照的に、厳格な血糖コントロールはその後の総死亡、心血管死、大血管イベント、細小血管イベントのいずれのリスクも減少させなかったけれども、末期腎不全は有意に減少させたと報告されました。DCCT-EDICやUKPDSと異なる結果であり、種々の考察がなされていました。
 私の発表演題は心血管イベントに対する血圧と時間の関係を検討したものであり、ADVANCE-ONは非常に興味深い内容でした。発表に際して、空調で声がかすれた私のために、座長のEle Ferrannini氏が水を持ってきてくださったことは忘れえぬ思い出となりました。

第75回アメリカ糖尿病学会(ADA2015)

http://professional.diabetes.org/Congress_Display.aspx?CID=95010

 ADA2015ではADA プレジデントのSamuel Dagogo-Jack 氏は75 Years of Battling Diabetes-Our Global Challengeと題して、今や世界的な問題となった糖尿病に対し、予防の重要性を説き、人種差の是正についても強調しました。講演の最後に“Happy Birthday ADA”と述べ、華やかに開幕しました。
 Banting Medal受賞者であるPhilipp E. Scherer 氏の講演はさすがに魅力的でした。1990年と2015年の脂肪細胞は顕著に異なるとし、脂肪細胞はプロフェッショナルな分泌細胞である。肥満者には代謝的に健康な人と不健康な人がおり、不健康な人には血管新生の障害、低酸素、線維化、炎症が影響し、早期にインスリン抵抗性をきたす。このようなMetabolic Flexibility は脂肪組織の拡大能力に依存している。そして、アディポネクチンが健康な脂肪組織の優れたインテグレーターであり、Metabolic Flexibilityと全身のインスリン感受性を反映するといった内容でした。
 Outstanding Educator in Diabetes Award Lectureでは、Massachusetts General HospitalのLinda M Delahanty 氏がMaking a Meaningful Difference-Learning from People, Practice and Researchと題して講演されました。彼女の姉妹は1型糖尿病でした。DCCTやDPPなどの研究に参加した症例について、食事療法をもっと可能にするのはneed to knowでなくnice to knowであること、生活習慣改善が遺伝的リスクに打ち勝つこと、何をするかを知ること、それは意志の力ではなくスキルであることなどを、症例ごとに解説・紹介し、とても印象的でした。
 その他、2つのシンポジウムにおいて、心血管系への安全性を検証する非劣性試験であるDPP-4阻害薬シタグリプチンを用いたTECOS試験、GLP-1受容体作動薬としては初となるリキシセナチドを用いたELIXA試験の結果が発表されました。両試験とも非劣性が確認され、注目された心不全による入院もプラセボとの間に有意差はなかったと報告されました。
 両学会に参加し、世界中から集結した研究者・医療者と、同じ目標に向かって討議する興奮を味わうことができたことは何よりの収穫でした。

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