vol.010 2017年 3・4月
糖尿病の合併症の早期発見に役立つ検査のすすめ |
(公財)朝日生命成人病研究所附属医院 所長・院長 岩本 安彦 |
糖尿病は合併症の予防が重要 糖尿病はインスリンの作用が不足することによって高血糖をきたす疾患です。高血糖が続き糖尿病が悪化すると、のどの渇き(口渇)、尿量が増える(多尿)、水をよく飲む(多飲)などの自覚症状が現れ、やがて食べてもやせる(体重減少)などの症状がみられます。高血糖に基づくこうした症状は多くのケースで長くは続かず、食事療法や運動療法の実践によって血糖値が低下すれば改善します。しかし、症状はなくても高血糖状態が続けば、やがてさまざまな合併症が起こり、徐々に進行してしまいます。 細小血管症と大血管症網膜症、腎症、神経障害は「細小血管症」と呼ばれ、糖尿病に特有の合併症です。一方、心筋梗塞や脳梗塞、下肢の動脈の閉塞性動脈硬化症は「大血管症」と呼ばれ、糖尿病に特有の合併症ではありませんが、糖尿病、肥満、高血圧、脂質異常症などによって助長される動脈硬化が原因となります。 合併症の早期発見のために これらの合併症や、糖尿病治療の長い経過中に注意すべき、癌などの併発疾患を早期に発見し、早期治療につなげるためには、さまざまな併発疾患の症状の出現に注意する必要があります。しかし、症状の出現を待っていては合併症はかなり進行してしまう危険性が少なくありません。例えば、視力低下など進行した網膜症の症状が現れた時には、眼底にはすでに出血や白斑などの所見が進んでしまっている可能性が大きいのです。 |
大腸内視鏡検査のすすめ |
消化器内科部長 鈴木 伸三 |
便潜血検査による大腸癌予防 日本においては、自治体健診や人間ドック等にて便潜血検査(2日法)による大腸癌のスクリーニングが行われています。便潜血検査は、大腸癌は正常な大腸粘膜に比べ脆(もろ)く微量の出血を伴っていることが多いという特徴を利用して、便に含まれる微量の血液成分を検出することで大腸癌の高リスクとなる患者さんを選び出しています。当院にて過去に施行された約50000件の便潜血検査を検証したところ、2回中1回陽性となった患者さんにおいては、約6%の方に大腸癌が指摘されました。さらに2回中2回陽性となった患者さんにおいては、約22%の方に大腸癌が指摘されるという結果でした。また、便潜血検査陰性であったものの、スクリーニングのため大腸内視鏡検査を受けた約300人の患者さんを調査したところ、なんと1.2%の方に大腸癌が指摘されました。 大腸内視鏡検査による大腸癌予防 大腸内視鏡検査は、肛門から直接内視鏡を挿入し大腸を観察するという検査です。検査中に生検(せいけん、※下注1参照)することができ、病理検査による大腸癌の確定診断が可能なことや、大きさ、形状によっては、大腸ポリープや大腸癌においても、その場で切除することが可能であり、大腸癌検査におけるゴールドスタンダード(※下注2参照)となっています。近年、New England Journalなど国際的にも著名な学術誌に、大腸癌スクリーニングを目的とした大腸内視鏡検査を施行することや、その際大腸ポリープ切除を行うことで、大腸癌を予防できるという報告が複数なされています。そこで、当院を含む5施設にて過去に大腸内視鏡検査を受けて大腸癌を否定された患者さん約50000人を追跡し、国立がんセンターより公開されている日本人の標準的な大腸癌の発生および死亡と比較したところ、発生においては約50%、死亡は約90%予防できることが示されました[学術誌投稿中]。 大腸内視鏡検査のすすめ なかには多忙であることなどを理由にして、便潜血陽性にもかかわらず大腸内視鏡検査を受けない患者さんがおられます。また、大腸内視鏡検査が人によっては腹痛や腹部膨満感などの苦痛を伴うことから、検査自体が忌避されてしまうこともあるようです。しかし、近年では検査技術の向上や内視鏡機器の開発が進んでおり、以前に比べれば検査自体の苦痛は軽減されています。また、苦痛を緩和するために鎮静剤の静脈投与をすることも可能です。 |
病棟担当医師から見た糖尿病教育入院について |
糖尿病内科 若林 沙矢香 |
糖尿病教育入院のすすめ みなさん、こんにちは。糖尿病代謝科の病棟を担当している若林と申します。今回私からは当院の糖尿病教育入院についてお話ししようと思います。 当院の教育入院についての研究 当院で教育入院された2型糖尿病患者さんを後ろ向きに研究したところ、若年、男性、短い罹病期間、肥満、少ない入院回数、ベースラインHbA1c高値、 空腹時血糖高値であることが、退院6ヶ月後のHbA1c低下に関連していました。また、インスリン分泌能(尿Cペプチド、血清Cペプチド)が高いことが、退院後に血糖コントロールがより改善する予測因子となりました。( Remi Sonoda et al. C-Peptide Level in Fasting Plasma and Pooled Urine Predicts HbA1c after Hospitalization in Patients with Type 2 Diabetes Mellitus. PLoS One. 2016; 11(2): e0147303.) |