成人病News

vol.017 2018年 10・11・12月

肥満症について

(公財)朝日生命成人病研究所附属医院

所長・院長 春日 雅人

「肥満症」とは

 皆さん、「肥満症」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか?
 肥満は太っている状態を表す言葉で良く御存知のことと思います。現在、肥満の程度は体格指数(BMI:Body Mass Index)、すなわちkgで表した体重をmで表した身長の2乗で割った数値で表現するのが一般的です。体重60kgで身長が160cmであれば、 60÷(1.6) 2=23.4 となります。わが国ではBMI≧25を肥満と定義しています。
 肥満の人、すなわちBMIが25以上の人でも、血糖値とか血圧など色々検査しても正常な人もおられます。一方、肥満の人では関連する健康障害を合併されている方も多く見られます。そこで、日本肥満学会では肥満に関連する健康障害を有する場合を「肥満症」と呼び、早期に減量するように呼びかけています。関連する健康障害としては、耐糖能異常(糖尿病)、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患・心筋梗塞・狭心症、脳梗塞、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、月経異常、妊娠合併症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満性低換気症候群、運動器疾患(変形性関節症など)、肥満関連腎臓病の11種類です。これに加えて、健康障害を伴いやすい高リスク肥満である内臓脂肪型肥満(腹部CTによる内臓脂肪面積≧100cm2)も「肥満症」と診断します。

「減量」で多くの健康障害は改善する

 「肥満症」という考え方のポイントは、肥満に合併する糖尿病、高血圧、脂質異常症などの健康障害は、減量すれば一挙に改善するという点です。すなわち、減量すれば経口血糖降下薬、降圧薬、高脂質症用薬を服用するなどそれぞれの健康障害に対する治療の必要がなくなるかもしれないのです。実際、特定健診、特定保健指導を受診された肥満症の人について調査してみると、1年間に3~5%の体重が減少すると血糖(HbA1c、空腹時血糖)、血圧、血中脂質(LDL-コレステロール、中性脂肪)の全てが優位に改善することが明らかとなりました。更に、肝機能や尿酸値についても同様の結果が得られました。以上より、11の関連する健康障害のうち少なくとも耐糖能異常(糖尿病)、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の5つの健康障害は3~5%の減量により、改善する可能性が高いといえます。肥満症については、これまで日本肥満学会が中心となりその対策を進めて参りましたが、肥満には上に述べたように多くの健康障害が合併します。従ってそれぞれの健康障害の専門家の協力を得て対策をたてることが重要です。そこで日本医学会連合が中心となり呼びかけた所、糖尿病学会、高血圧学会、動脈硬化学会などの内科系学会はもとより、外科学会、小児科学会、産婦人科学会、整形外科学会など関連する23の学会が肥満症の撲滅を目指して協力して活動していくことになりました。
 しかしながら、最も重要なのは、御本人が過体重を自覚して積極的に減量に取り組むことです。BMIが25以上の皆さんは、食事や運動により3~5%の減量をまず目指して下さい。それが達成できれば多くの数値が改善され、いくつもの健康障害が解消に向かいます。そして次はその体重を維持することです。皆さんの積極的な減量への意欲を期待します。

消化器内科の診療と研究

消化器内科部長 木下 裕人

自己紹介

 本年7月より前任の井原医師より消化器内科を引き継ぎました、木下裕人と申します。前職は東京大学医学部附属病院の消化器内科で、慢性胃炎、炎症性腸疾患、胃癌、大腸癌など消化管疾患を専門として診療と研究を行っておりました。朝日生命成人病研究所附属医院では消化管のみならず、消化器内科全般および関連する臨床検査を担当しております。研究所の一員として基礎研究も行っております。

消化器内科の診療

 当科では消化器疾患全般の診療を行っており、胃および大腸の内視鏡検査や、腹部超音波検査およびCTスキャンなど、消化器領域の検査を幅広く行っております。近隣の医療機関との連携も大切にしており、クリニックや企業診療所から検査の依頼は随時受け付けております。東京大学から、肝臓を専門とする榎奥医師、膵臓・胆道を専門とする中井医師を週1回ずつ外来担当として派遣していただいているのに加えて、長年当院で診療されている横浜市立大学の前田医師と当院OBの赤沼医師のお力もいただき、消化器内科の専門領域を幅広くカバーするとともに、必要に応じて大学病院でのより専門的な診療に移行することも可能です。
 胃癌、大腸癌、肝癌といった消化器癌は日本人には多い疾患であり、進行すると命に関わることもあるため、癌の早期発見は消化器内科においてとくに重要と考えております。まず、患者さん個々人がそれぞれの癌になりやすいかどうかを判断し、そのリスクに応じて定期的な内視鏡検査や超音波検査を行っております。たとえば、胃の内視鏡やバリウム検査で慢性胃炎があると、今後胃癌が発生するリスクが高いと考えられますので、1年ごとの内視鏡検査をおすすめし、また発癌予防のためにピロリ菌の除菌治療をします。肝癌は、慢性の肝障害(脂肪肝、アルコール性肝障害、ウイルス性肝炎など)を背景として発生するので、採血検査や超音波検査で慢性の肝障害があるとわかったら、肝障害の治療・経過観察を行いながらに画像検査も定期的にフォローします。

消化器内科の研究

 当科では、東京大学消化器内科と協力して、さまざまな基礎研究を行っています。脂肪性肝疾患(いわゆる脂肪肝および脂肪性肝炎)からの発癌に関わる遺伝子の研究、腸炎(感染性腸炎や炎症性腸疾患)に対するあらたな薬物治療の研究、大腸癌の予防に有効な薬物の研究、などが進行中です。
 私自身は、慢性胃炎や胃癌をテーマとしております。近年、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)が慢性胃炎や胃癌の原因として決定的に重要であることが明らかとなりました。ピロリ菌を排除する除菌治療も確立され、将来的に慢性胃炎や胃癌が減少していくのは間違いないでしょう。しかし、ピロリ菌を除菌した後に胃癌が発生することもあり、とくに「腸上皮化生」という病変がある場合に発癌のリスクが高く、腸上皮化生はピロリ菌を除菌した後もなかなか消えない、など未解決の問題も多いのです。より効果的な予防法の開発につながることを期待して、慢性胃炎や胃癌の分子生物学的な研究を続けています。

血糖値スパイク

糖尿病内科 高橋 和之

 糖尿病患者では食後急激に血糖値が上昇する血糖値スパイクが起こります。この血糖値スパイクは、心筋梗塞や脳梗塞などの大血管疾患、認知症や癌、糖尿病網膜症などに関連していることが報告されています。私達は第61回日本糖尿病学会年次学術集会にて「2 型糖尿病患者における外来受診時の食後高血糖と網膜症発症リスク」について発表しました (糖尿病61 Supp1;S-294)。
 食後高血糖を抑制するためにインスリン注射や経口血糖降下薬は効果的ですが、薬物を使用する以外にも食後高血糖を改善する方法がありますので、紹介したいと思います。

野菜を先に食べる

 ご存知の方も多数いらっしゃるかと思いますが、野菜を先に食べることで食後高血糖を抑制することができます。健常者が米飯摂取10分後に野菜サラダを摂取した場合と野菜サラダ摂取10分後に米飯摂取した場合の血糖値を検討した研究 (糖尿病53(2):96~101,2010) では、米飯後野菜サラダ群では食後速やかに血糖上昇し30分でピークに達したのに対し、米飯前野菜サラダ群では食後60分後まで血糖上昇はわずかで90分でピークに達し、食後120分にかけて下降し120分値ではほぼ同等の血糖値となりました(図1)。
血糖値推移グラフ1-野菜サラダと米飯の先後
 また2型糖尿病患者で比較した研究 (糖尿病53(2):112~115,2010 ) では、米飯から先に摂取した場合の食後血糖値が30 分後217mg/dl、60分後208mg/dlであったのに対し、野菜から先に摂取した場合には30分後172mg/dl 、60 分後187mg/dlと低値でした(図2)。
血糖値推移グラフ2-野菜と米飯の先後

肉や魚を先に食べる

 野菜だけではなく、肉や魚を先に食べることでも食後血糖上昇を抑制した報告もあります。2 型糖尿病患者及び健常者において、サバの水煮や牛肉の網焼きを米飯より先に摂取することにより食後の血糖上昇を抑制しました ( Diabetologia 59:453-61,2016 )

朝食を食べる

 朝食を欠食する人は若者を中心に多いと思いますが、朝食を欠食すると昼食後に血糖値が上昇しやすいことも報告されています。2型糖尿病患者において昼・夕食は同じカロリーを摂取しても、朝食を摂取した群での食後血糖値のピークは、それぞれ昼食後192mg/dl、夕食後215mg/dlであったのに対し、朝食を抜いた群では昼食後268mg/dl、夕食後298mg/dlと、朝食を欠食した方がより昼夕の食後高血糖が顕著でした ( Diabetes Care 38:1820-6,2015 )

運動をする

 有酸素運動(楽である~ややきついとと感じる程度)は1回20~60分、週3~5回以上(合計150分以上)が推奨されています。また最近ではレジスタンス運動(力んで呼吸をしない、有酸素レベルの筋力トレーニング)を併用することも有効であることが明らかとなっています。運動はいつ行っても効果はありますが、食後に行えば食後高血糖の改善を期待できます。合併症の進行によっては運動ができない場合もありますので、行う前には主治医に確認することは重要です。また、食前に運動を行う場合には低血糖のリスクのある薬(インスリン、スルホニル尿素薬など)を使用している場合には低血糖に対し、十分注意が必要です。

 食後高血糖は糖尿病と診断されていない人でも起こることがあります。
 同じ食事内容においても食事の順番を変えることや朝食をとること、運動のタイミングなどで食後血糖上昇を抑制できる可能性がありますので、できそうなものから実践してみてはいかがでしょうか。

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