成人病News

vol.021 2019年 10・11・12月

肥満症に対する外科手術

(公財)朝日生命成人病研究所附属医院

所長・院長 春日 雅人

わが国における肥満症治療

 肥満(BMI≧25)に耐糖能障害(糖尿病)、高血圧あるいは脂質異常症などの健康障害を合併するか、その合併が予測される場合を肥満症と名付け、早期に治療を開始する必要があることは以前にも述べたと思います。そして肥満症では、5%の減量で耐糖能障害、高血圧、脂質異常症のいずれもが改善されることが、多人数の日本人に関する研究で明らかになりました。肥満症の治療は、食事療法と運動療法が基本です。薬物治療ですが、わが国で医療保険でその使用が認められている肥満症の薬はマジンドールのみです。しかもその使用はBMI35以上の高度肥満者に対して最長3ヶ月迄と制限されています。実際にBMI35以上の高度肥満の方を拝見しますと、体が重くて活発な運動療法は難しい印象を受けます。このような高度肥満の方に外国では外科手術が盛んに行われています。しかしわが国ではほとんど行われていないので、高度肥満症に対して実施される外科手術について少し紹介をしたいと思います。

国内外での実施状況

 この手術は、Bariatric Surgery(減量手術)あるいはMetabolic Surgery(減量手術)と呼ばれており、1960年代に米国を中心に試みられるようになり、少し古いデータですが2013年には米国/カナダで約15.5万件、インドで1万件、中国で4000件、台湾で2000件、韓国で1700件実施されましたが、わが国では僅か200件弱が実施されただけでした。この手術にはいくつかの術式がありますが、現在主に実施されているのはスリーブ状胃切除術と胃バイパス術です。いずれも胃の容量を小さくしたり、食物が胃を通過しないようにするので、食事量が減少して体重が減り、耐糖能障害が改善すると考えられていました。しかしよく観察してみると、体重が減少する以前に耐糖能障害が改善する症例もあり、腸内細菌叢の変化などいくつかの機序が働いて耐糖能が改善すると考えられています。

患者さんにとってのメリット・デメリット

 わが国では、この手術の適応となるのは18歳から65歳迄のBMI35以上の患者さんか、糖尿病か糖尿病以外の2つ以上の合併疾患(高血圧、脂質異常症、肝機能障害、睡眠時無呼吸症候群など)を有するBMI32以上の患者さんと考えられており、2014年からスリーブ状胃切除術が健康保険の適応となっています。欧米での実績は素晴らしく、多くの症例で長期に渡って内服薬と比較し良い血糖コントロールが得られています。またこの手術を受けた患者さんは、心血管死や癌死も減少し病気による死亡率は同程度の肥満の方と比較して半減しているという報告があります。一方、手術に伴う危険があること、胃など臓器を切除しそれらを戻すことはできないこと、手術後に吐き気やダンピング症候群をひきおこすことがあることなどの問題点があります。従って、患者さんにこの手術の利害得失をよく説明し、十分に考え納得できる結論を出して頂くことが重要です。そのために、手術の決断に際しても、また手術の術前・術後にも患者さんを強力にサポートすることが必要で、外科医のみならず内科医、精神科医更には看護師、臨床心理士などからなる医療チームの編成が必要と考えられています。

当院着任のご挨拶と教育入院について

糖尿病代謝科・部長 窪田 哲也

着任のご挨拶

 本年10月より当院の糖尿病代謝科に着任致しました、窪田哲也と申します。平成9年に東邦大学医学部を卒業し、東邦大学大橋病院で循環器内科、その後東京大学大学院糖尿病・代謝内科、国立健康・栄養研究所(現 医薬基盤・健康・栄養研究所)、理化学研究所や神奈川県立産業技術総合研究所で肥満や糖尿病の発症機構や予防法について研究を行ってまいりました。

当院入院施設のご案内

 病棟担当(看護科部長)として外来患者様の診察だけでなく、入院患者様についても担当させていただきます。糖尿病治療の大きな目標は血糖値を下げることにより、糖尿病特有の三大合併症(神経症、腎症、網膜症)を予防すること、さらに脳血管合併症を未然に防ぐことにあります。そのためには、血糖値を下げるためのお薬やインスリンなどの治療はもちろん必要になりますが、食事療法と運動療法は最も重要なものになります。おそらく皆さまも食事や運動の重要性は十分わかっていらっしゃるかもしれませんが、やはりこれまでの食習慣や生活環境があり、なかなか変えていくことは困難かと思います。そういう糖尿病患者様こそ、ぜひ当院で「教育入院」をしていただき、現在の食習慣や運動習慣などの見直すきっかけにしていただければと思っております。当院ではそれぞれの専門のスタッフや専任の看護師を配置し、糖尿病教室(※写真下掲)など行って、なるべく短期間で集中的に学んでいただけるようにしております。また当院の入院中の食事は大変おいしいとご好評もいただいておりますので、ぜひお試しいただき、退院後の参考にしていただければと思います。通常は2週間の入院期間を想定しておりますが、なかなかお休みをとれない患者様の場合3-5日の入院も可能ですので、ぜひ一度考えていただければと思います。さらに入院中には、糖尿病特有の合併症の評価だけでなく、糖尿病患者さんに多いとされる癌についての検査も必要に応じて行っております。糖尿病の治療は、患者様ご自身や、ご家族の方が十分理解された上で自己管理をしていくことが何より大切ですので、ぜひそのきっかけとして「教育入院」を考えていただければと思います。

最後に

 朝日生命成人病研究所は糖尿病の診療や研究において大変歴史のあるところですので、その歴史に恥じないようにこれまでの研究経験も生かしまして、少しでも患者様のお役に立てるように努力していきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

糖尿病教室1
糖尿病教室2

[ 写真 : 朝日生命成人病研究所附属医院 糖尿病教室の様子(講師は筆者)]

※教育入院については、以下の記事もご参照いただけます。
  “成人病News”Vol.4(2016年3・4月)「当院の療養指導と教育入院のすすめ」

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